コミットメントを含む繰り返しゲーム
柴 直樹
  あらまし 虚偽のコミットメントの効用と、それを防ぐメカニズムを探るための基本的な枠組みとして、繰り返し囚人のジレンマゲームを拡張したモデルを提案する。さらに、そのモデルを用いた計算機実験により、コミットメントの履行に着目した三つの典型的な戦略の優位性について比較を行なう。3戦略にノイズを加えた場合のコンピュータシミュレーションと、多様な戦略プールの中から淘汰によって優位な戦略が次世代に残るという進化ゲームの手法を用いた計算機実験を通して、コミットメントを破棄する戦略に比べて、コミットメントを履行する戦略の方が有利であるという結果を示す。
  キーワード 繰り返し囚人のジレンマ、コミットメント、進化ゲーム
     
社会的ジレンマ問題への学際的接近
小山友介、小林 盾、藤山英樹
針原素子、谷口尚子、大浦宏邦
  あらまし 本論文では、社会的ジレンマ問題が現実に解決されている方法として、「プレイヤが集団間を移動する」「ゲームをプレイする相手を選ぶ」効果を検討した。検討に当たって、数理モデルで示された集団間を移動する協力的な戦略が進化論的に生存可能な領域があることを示した後、その可能性を被験者実験と被験者への質問紙調査で管理された環境下での実際の人間行動を調べ、社会調査で実際の社会における人間行動を調べる、という三つの質的に異なるアプローチによる学際的接近を試みた。実験および社会調査データを分析した結果、数理モデルによる理論的予測で示された、「協力率が低い空間では逃げだし、協力的な空間を求める」戦略に近い行動をとる被験者(および回答者)の示すパフォーマンスは
(最も高くはないが)高いことがわかった。
  キーワード 社会的ジレンマ、フリーライダ問題、選択的プレイ、実験、転職
     
限定的な推論能力が協力行動を導く可能性 今野直樹
  あらまし 本稿では、展開形ゲーム状況においてプレイヤが推論の際に誤りを起こす可能性がある状況を記述するモデルを提案する。これまで戦略形ゲームにおいては、プレイヤは利得の高い戦略をより高い頻度で選択しようとするが、確率1で選択することはできないというモデルが検討されてきた。展開形ゲーム状況では、これに加えどれだけ先の選択なのかということも推論の精度に影響すると仮定し、モデルを構築する。さらにこのモデルをムカデゲームに適用することにより、推論能力の不完全性もまた協力行動をもたらす一因であることを検証する。
  キーワード ムカデゲーム、Quantal Response、社会厚生、限定的な推論
     
限定合理性への手がかり
−実質合理性(Substantive Rationality)−
下川拓平
  あらまし エージェントの「合理性」という、行動を特徴づける特性が、いわゆる情報構造の理論を用いてどのように定式化されるかを〔6〕〔2〕、それぞれにて言及/定義される、実質合理性:“substantive rationality”の概念に焦点をあてて論じる。これは「合理性」の認識論的分析の、ある種の土台を探し出す作業をも含む。具体的には、この“substantive rationality”がエージェント間の共有知識であるとの一見同一の前提条件で、上記文献で一見背反な結果が導出されている、その簡単な例を見る(「合理性」の定義の微妙な差異により、まるでことなる結果が導出されてしまうことは、示唆する所大である)。簡単なイグゼンプラを見ながら説明を行う。
  キーワード 完全情報展開型ゲーム、情報構造、実質合理性
     
内発的動機づけを導入したエージェンシー・モデルの分析
松村良平、小林憲正
  あらまし 本論文は、従来の経済モデルで陽的には扱われてこなかった、組織の成員の内発的動機づけを考慮に入れた新たな経済モデルを作り、現実の組織マネジメント、特に成員の動機づけ管理への示唆を得ようというものである。より具体的な目的は、内発的動機づけをもった成員を想定したとき、この存在を効率よく動機づけ、良い成果を達成させるために、どのようにインセンティブを与えたらよいか、そして、内発的動機づけの向上のためにどれだけコスト(動機づけコスト)をかけたらよいかという問題を分析しようというものである。分析の結果、生産性の高さなどに応じた、業績給、動機づけコストの導入方法がわかった。
  キーワード 内発的動機づけ、エージェンシー・モデル、動機づけコスト
     
標準形ゲームと社会ネットワーク
猪原健弘
  あらまし ここでは、ゲーム理論的主体と心理学的主体の融合によって構成される新しい意思決定主体像と、そのような主体が意思決定を行う新たな意思決定状況像を紹介する。新しい主体は、経済合理性だけでなく、他の主体に対する感情や態度によっても影響を受ける、いわば「心理合理性」も備えている。新たな状況下での新たな主体の振る舞いの帰結を表現するために、「関係均衡」と呼ばれる新たな均衡概念を導入し、その性質を、「囚人のジレンマの状況」や「チキンゲームの状況」などの例を用いた分析結果で紹介する。
  キーワード 標準形ゲーム、社会ネットワーク、合理性、バランス理論、均衡