リスク環境におけるドライバと運転支援システムの協調

伊藤 誠、稲垣敏之
  あらまし 本稿では、多様なリスク環境における人と機械との協調を論ずる。人間の判断をつねに優先する古典的な「人間中心の自動化」の考え方では十分な安全性の確保は難しいことが、これまでの事例や研究から明らかになってきている。これに対して、状況とそこでのリスクに応じて、機械が安全確保のために自律的に判断・実行することを許す必要があることを指摘し、その有効性を示した自動車の運転支援に関する研究例を紹介する。また、このような動的特性を有する支援が、人に受容され、なおかつ過信や過度な依存をもたらさないようにするために克服すべき課題を述べる。
  キーワード 人間機械協調、リスク、自動車、運転支援、人間中心の自動化、シミュレーション
     
定量リスク分析における留意点 長谷川 専
  あらまし 近年、リスクに対する意識が高まるにつれ、さまざまな意思決定等の判断材料として、定量リスク分析の必要性が高まってきている。定量リスク分析では、ベースケースモデルの諸変数に確率分布を与えるとともに、変数間に依存関係を与えてリスクモデルを構築する。そしてモンテカルロシミュレーションを実行することでアウトプットの確率分布を求め、意思決定者に分かりやすく提示するというプロセスがとられる。本稿では、これらのプロセスに沿って、定量リスク分析を実施する上の基本的な留意点を述べ、これらに配慮した天候デリバティブの分析事例を紹介する。
  キーワード ベースケースモデル、確率分布、依存関係、モンテカルロシミュレーション、天候デリバティブ
     
地震時における消防力の効果的な運用 糸井川栄一、熊谷良雄
  あらまし 阪神・淡路大震災の事例に見られるように、大規模地震時には、多くの建物倒壊によって住民の生き埋めや、同時多発火災が発生することが予想される。これに対応する消防力は、人的・物的被害の大きさに比較して十分に対応するには非常に限られた資源である。この消防力を大地震発生後に戦略的・効果的に運用することが必要不可欠の課題となっている。本稿はこの問題に応えるため、震災時に必要な消防活動のうち消火活動と救出活動に注目し、同時多発した火災と救出事象に対して消防機関がどのような対応を行うことが最も効果的に被害を軽減しうるか、検討を行ったものである。
  キーワード 大規模地震、消防隊、消防団、市街地火災、消化活動、救助活動
     
事前復興計画論に基づく地区防災まちづくりの新たな可能性 市古太郎
  あらまし 大都市は地震に対して脆弱である。この脆弱性は帰宅困難者問題のように直後期だけでなく、影響が長期間にわたる問題もある。その1つが本稿で論じる都市復興である。本稿では「事前に復興に備える」という視点で阪神淡路大震災以降、主に東京で取り組まれてきた「事前復興」の考え方を示し、その考え方に基づいて実施されている2つの訓練プログラムを紹介する。この訓練はこれまでの防災まちづくりに新たな可能性を付与するものであり、紹介と同時にその論点を提示したい。
  キーワード 事前復興計画論、首都直下地震、都市復興、防災まちづくり、震災復興まちづくり模擬訓練
     
リスク論に基づく安全・安心の合理的な考え方 氏田博士
  あらまし まず最近多発する組織事故や不祥事とは何かを考察する。次に安全を担保するための深層防護やリスク概念などの方法論を整理しさらにその基本となるリスク論の問題点を摘出する。リスク論が安全・安心の考え方の基本として認められるためには、人間信頼性評価や組織の信頼性評価の方法論としての十分な検証が必要である。さらに、安全性向上のためには、組織として技術的に考慮すべき安全文化や技術者倫理やリスクテラシーなど、また社会側から組織や技術システムへ働きかける仕組みも不可欠である。最後に、安全性を向上するための安全ファンドなどの積極的な枠組みの動向についても述べる。
  キーワード リスク概念、方法論の検証、安全組織、安全のプラス評価