食の安全と安心の本質とは何か 大野卓璽
  あらまし 我が国では、O157による集団食中毒の発生以来、「食」の安全と安心について急速に関心が高まり、日本や米国で牛海綿状脳症(BSE)に感染した牛が確認されてからは、食の安全と安心は国家間論争にまで発展した。しかし、この世には「食」に限らず絶対的な安全と安心は存在しないので、安全と安心を求めるためには、常にリスクと隣り合わせで生活をしながらどこかで妥協点を見い出すしかないわけである。本稿では、食の安全と安心の違いとそれぞれの対策について述べ、最後には食の究極的安心として食育の重要性に言及し食の安全と安心の本質について考察する。
  キーワード 企業倫理、コンプライアンス、リスクマネジメント、リスクコミュニケーション、HACCP、トレーサビリティ、食育
     
農薬適正使用ナビゲーションシステム
− 安全・安心な農業生産を支援する−
南石晃明
  あらまし 本稿では「安全・安心な農産物」を考える上で消費者の関心が大きい農薬使用の面から、その適正使用を支援するシステムについて述べる。具体的には、農産物トレーサビリティおよびGAP(Good Agriculture Practice:適正農業規範)との関連も含め、我々が研究開発している農薬適正使用ナビゲーションシステム(以下、農薬ナビ)[1][2]の概要について紹介する。農薬ナビは、農薬適正使用判定支援システム、農薬使用自動認識・現場警告システム、病虫害発生事例ベース・リスク評価システムから構成される[2]。農薬ナビは、現在、公開実証試験を継続しており、利用者登録をすることにより自由に利用できる。
  キーワード 農薬適正使用、農業生産、生産現場警告システム、意思決定支援システム
     
食環境づくりと公衆栄養活動の発展
−BSE・鳥インフルエンザ等の食肉に関する問題を中心に−
野口孝則
  あらまし 食品衛生法や食品安全基本法の制定(改正)や食品安全委員会の発足など食品安全行政が見直され、またアレルギー物質、残留農薬、遺伝子組換え食品の検査・分析技術が開発されるとともに、食品の広告・表示やトレーサビリティについても新たな展開がみられている。食品の安全・安心についてのマスメディアの役割と問題点が指摘されている。食の安全に関わる問題として、特に牛海綿状脳症(BSE)と鳥インフルエンザ等の食肉に関する問題を中心として取り上げ、これまでの経緯と対策を検証し、今後、最も必要とされる食の安全・安心に関する情報の公開(公衆栄養活動)について述べる。
  キーワード 食環境、食の安全、食品事故、牛海綿状脳症(BSE)、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、鳥インフルエンザ、フードチェイン、トレーサビリティ制度、公衆栄養活動、食品安全委員会、デ・ミニミスの概念、予防原則(precautionary principle)
     
遺伝子組換え作物と途上国社会
山口富子
  あらまし 遺伝子組換え作物の商業栽培は1996年頃から徐々に広まり始め、近年飛躍的に栽培面積が拡大した。この波は途上国にも押し寄せ、1999年頃から南アフリカ、中国を中心にインド、インドネシアなどでも遺伝子組換え作物の商業栽培が行われるようになった。そこで本稿では、インドの遺伝子組換えワタ(Btワタ)が商業化に至るまでの過程で起こった論争を題材とし、途上国における遺伝子組換え作物のインプリケーションについて「アクター」「フレーミング」「クレーム」という概念を使い検討する。
  キーワード 遺伝子組換え作物、発展途上国、フレーミング
     
農業経営における数理計画問題 伊藤 健
  あらまし 工業や情報産業同様、農業もORによる効率化を必要とする分野であり、農業経営の効率化、生産性向上を目的とした数理計画問題が存在する。本稿では線形計画問題として定式化される作付計画問題の基本モデルを紹介するとともに、不確実・不確定要素を含む場合について、確率計画およびフレキシブル計画の概念による拡張可能性について議論する。また、農業経営におけるその他の計画問題に関して、著者らの取り組む課題に言及する。
  キーワード 作付計画問題、線形計画問題、確率計画法
     
農業生産システムの環境影響評価−ORとLCA− 林 清忠
  あらまし 持続可能な農業生産に転換する必要性が国の政策レベルでも指摘されるようになった。持続可能性を評価し適切な政策立案を行う上で、環境影響を統合化する作業が不可欠である。本稿では、農業生産システムの環境影響評価に適用されてきたLCA(ライフサイクルアセスメント)を取り上げ、OR、特に意思決定分析の視点から、これまでの問題点を再検討する。第1に、LCAにおける機能単位の定義に関する議論を行い、集約度と環境影響の関係も再吟味する。第2に重み付けによる環境影響の統合化の可能性を検討し、これまでの論点を明らかにする。
  キーワード 農業生産システム、意思決定分析、LCA(ライフサイクルアセスメント)、機能単位、統合化
     
農業生産におけるフィールドサーバの活用
平藤雅之
  あらまし フィールドサーバは、計測用Webサーバ、無線LAN、複数のセンサ、カメラ、LED照明、太陽電池等を耐候性の高い筐体に格納したWebベースのセンサノードである。フィールドサーバの周囲にはWi-Fiホットスポットが生成され、屋外にユビキタスなインターネット環境が構築される。データはデータ・グリッド(MetBroker)で統合され、Webで公開されている。現在、米国、中国、デンマーク等十数カ国で運用実験が行われており、農業及び環境研究、トレーサビリティシステム、砂漠の緑化等で活用が始まっている。
  キーワード センサネットワーク、Wi-Fi、フィールドサーバ、環境、農業
     
「人の和と集落の輪」で農地を守り「儲ける農業」にチャレンジ
福西義幸
  あらまし 野洲川の対岸を走るJR草津線の電車の音が水田地帯にこだまする滋賀県甲賀市水口町酒人地区。昭和の終わりから平成の初頭にかけ、ほぼ全戸が第2種兼業農家だったこの集落に農業崩壊が始まった。このままでは集落そのものが壊滅する。不安の中から危機意識が芽生えた。そんな状況下、集落の農地をどうやって守っていくのかという真剣な議論が始まった。委員会を作り時間をかけたていねいな話し合いをすすめた結果、集落一農場方式で組織営農に取り組む方向で地権者の合意が得られた。「集落の農地は自分たちの責任で後世に引き渡そう」という思いからだった。同時に、圃場基盤の整備と生活環境の改善を進めていくことも決めた。
  キーワード 第2種兼業農家、農業崩壊、集落一農場方式、圃場整備、御神酒、近江下三座、甲賀流忍術、近江天保の一揆、土は命、土に生きる、水呑み百姓、集落営農ビジョン、なごやか営農グループ、すこやか営農グループ、やすらぎ営農グループ、農事組合法人
     
情報戦略からブランド戦略へ−日清食品を例として−
能勢豊一
  あらまし 今日、あらゆる業種の生産対象は、「モノ」から「情報」、さらに「ブランド」へと推移し、その間にそれらをデザインし、評価する対象となる品質は暗黙知を中心としたアナログな形から、形式知を中心としたデジタルな形へと、そのウェイトをシフトさせてきた。その中にあって、製品についての安心・安全が最も大きく取り上げられているのが食品業である。食品は日常的に顧客と密接につながっている産業であるだけに、社会環境の変化によって受ける影響についての関心は高い。しかも、消費者が食品に求める因子も昔とは同一ではなくなってきている。変わっていないように見えるものの中に変化があり、逆に変化しているようなものの中に変わらず一定のものがある。ここでは日清食品という食品業を例に、デジタル化する食文化について考察すると共に、モノづくりの原点と戦略的思考のあり方について論じることにする。
  キーワード サービス科学、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、帰納法、演繹法