複雑二重ネットワークモデル−知識と人のネットワークで社会を観る−

寺野隆雄

  あらまし 本稿では、エージェント指向の社会シミュレーションの新しい手法として、複雑二重ネットワークモデルの概念を紹介する。複雑二重ネットワークモデルでは、個々の個体のもつ知識をエージェント内のネットワークで表現し、個体間の関係を社会ネットワークで表現する。これによって、社会ネットワーク上のエージェント間のインタラクションから生ずる個々のエージェント内の知識の変化ならびに社会ネットワークそのものの変化を動的に分析し、新しい知見を得ようとする。本稿では、最近の研究成果の例として貨幣概念の創発メカニズムの分析を述べるとともに、このような研究アプローチの今後について考察する。
  キーワード エージェント・シミュレーション、社会ネットワーク、複雑二重ネットワークモデル、貨幣の創発メカニズム
     
新型インフルエンザに対するパンデミック対策プログラムとプロジェクト分析 金谷泰宏、出口 弘、齋藤知也、兼田敏之
小山友介、市川 学、田沼英樹
  あらまし 新型インフルエンザに代表される大規模感染症を対象とした社会シミュレーションを実施するにあたり、病態、感染及び人間活動モジュールからなる基本モジュールを設計した。この中で感染症対策を病原体の排出抑制対策、場や個人の汚染の減衰対策、個人汚染防止対策、空間密度対策などのフィルター概念としてとらえ、これらの対策フィルターの重ね合わせにより感染症防止の社会対策をデザインする方法論を検証した。
  キーワード 社会シミュレーション、SOARS、新型インフルエンザ
     
歩行者回遊行動のエージェントモデリング
兼田敏之、吉田琢美
  あらまし 本稿では、実用関心、理論関心上の意義を持つ商業集積地区来訪者の回遊行動モデル研究の経緯を簡潔に解説したのち、マルコフ型モデルでは扱えなかった回遊行動特性の指摘を踏まえて、歩行者回遊行動のエージェントモデリングについての研究を解説する。限定合理性が特徴となるエージェントのモデリング研究におけるルールベースと合理性仮定緩和の二種のアプローチについて解説するとともに、筆者らの取り組みを交えて、最近の回遊行動エージェントモデリングの研究事例を紹介する。スケジューリング、エージェント内部の動的更新、データフィッティングを巡るモデル開発のトリレンマについても言及する。
  キーワード 回遊行動、エージェントアプローチ、都市解析
     
環境配慮型社会をデザインするエージェントベースモデリング:
研究の現状と今後の分析課題
在間敬子
  あらまし 環境問題に対する政策・制度を設計するための社会科学の研究方法として、エージェントベースモデリング(Agent-Based Modelling、以下ABMと略す)の利用が急速に広まっている。環境問題の解決に向けて、なぜABMのアプローチが必要なのか。どのような問題に対して、ABMが適用されてきたのか。その特徴は何か。今後どのような領域の研究が期待されるのか。本稿の目的は、これまでの研究文献のサーベイから、これらの疑問を明らかにすることである。
  キーワード エージェントベースモデリング、環境−社会システム、環境問題、環境配慮の普及
     
組織デザインと社会シミュレーション
高橋真吾
  あらまし 多様に変化する環境のもとでの組織デザインの問題に社会シミュレーションを利用するために、組織メンバーとしてのエージェントの自律性を情報処理の観点からとらえた情報処理パラダイムの考え方と、意思決定の相互作用からとらえた意思決定パラダイムの融合が不可欠である。それにより、組織の失敗に対処する組織学習に基づく組織デザインが可能となる。社会シミュレーションによる組織デザインの基本的考え方は、ビジネス複雑性という現代の経営を取り巻く状況においてマネージャへの行動指針を与えることである。
  キーワード 組織デザイン、情報処理パラダイム、意思決定パラダイム、組織サイバネティクス、計算組織論、組織学習、ビジネス複雑性