音楽における自動処理とDirectability 片寄晴弘
  あらまし 音楽プロセスを、計算機を用いて実現しようとする取り組みは、他の計算機科学の研究分野と比べても早期から立ち上がり、1957年には自動作曲作品「イリアック組曲」が作曲されている。それ以降、この領域では、自動作曲、演奏の表情付け、自動伴奏など、さまざまな音楽システムの開発がなされてきた。これらのシステムは、計算機科学の可能性を示すものとして大きく注目されてきた。その一方で、「ヒトのための」という視点において、システムはどうあるべきか、どうデザインされるべきかという事項に対しての関心も高まりつつある。本稿では、自動音楽処理の代表的な研究例を紹介するとともに、これからの音楽インターフェースの在り方について議論する。
  キーワード 音楽システム、自動処理、インターフェース
     
日本語歌詞からの自動作曲
嵯峨山茂樹、中妻 啓、深山 覚、酒向慎司、
西本卓也
  あらまし 本稿では、任意の日本語テキストの持つ韻律に基づき、歌唱曲を自動作曲する手法について解説する。文学作品や自作の詩、ニュースやメールなど、あらゆる日本語テキストをそのまま歌詞として旋律を生成し、歌唱曲として出力する自動作曲システムは、手軽な作曲のツール、音楽の専門知識を持たない人のための作曲補助ツールとして有用であろう。さらに著作権問題の回避としても用途があろう。歌唱曲は歌詞との関連性が求められる。特に高低アクセントを持つ日本語では、発話音声にピッチの高低が付くため、歌詞を朗読する際の韻律と旋律が一致することが重要とされる。筆者らはこの点に着目し、ユーザが選択した和声、リズム、伴奏音形を拘束条件として、旋律を音高間を遷移する経路とし、韻律の上下動の制限の下で最適経路となる旋律を動的計画法により探索する問題として旋律設計を捉えた。このモデルに基づき、任意の日本語歌詞に、その韻律に一致した旋律を付ける自動作曲手法により自動作曲システムOrpheusを作成したので紹介する。
  キーワード 自動歌唱作曲、日本語韻律、最適化問題、和声進行、リズム木
     

音楽を探る−オペレーションズ・リサーチ的手法を使って−

Julian Villegas、Michael Cohen
  あらまし オペレーションズ・リサーチの音楽への適用例を2つ紹介する。はじめに、音階を多次元多様体へマッピングする手法とその利点を述べる。その応用として、らせん鍵盤および3次元音階をインタラクティブに聴覚的・視覚的に表現する方法について解説する。次に、ローカルミニマム探索手法により音響ストリームの不協和音をリアルタイムに軽減する方法について述べる。
  キーワード Mathematical modeling、OR practice、discrete optimization、musical scales、automatic reintonation
     
音楽創作とコンピュータ音楽
莱 孝之
  あらまし 西洋音楽の長い歴史の中、テクノロジーの革新は音楽の発展にも大きく貢献してきた。我々が普段耳にしているピアノの音色も19世紀の鋳物技術の発達によって可能になったものであり、もちろん、今日のデジタル音の氾濫は20世紀後半の情報処理技術の賜物である。我々作曲家はいつの時代にも表現手段の拡張を試み、新たな芸術を創造しようとして格闘している。本稿では、一人の作曲家としての立場から、芸術音楽創作、音楽の発展、そしてコンピュータと音楽の出会いを紹介していきたいと思う。
  キーワード 作曲、芸術音楽、音楽の発展、コンピュータ、音声信号処理
     
人間の認知的特性に基づく音楽設計理論の構築に向けて

竹中 毅、相澤祐一、鈴木晋太郎

  あらまし 音楽の設計は、他の人工物の設計と比べて、環境条件や目的を明示化することが極めて困難である。そのため、音楽の設計理論に対する科学的、工学的なアプローチは少なく、作曲行為は人間の暗黙知に大きく依存している。一方で、既存の音楽には時代や地域を超えた共通性が見られることから、音楽的秩序には人間の認知的・身体的特性に基づく必然性があると思われる。筆者らは、人間の認知的特性に基づいて、創発的に楽曲断片を生成することで、音楽の発生学的な根拠を理解することを目的としてきた。本稿では、筆者らの研究例を紹介するとともに、新たな音楽設計理論の可能性について議論したい。
  キーワード 創発的設計、認知的特性、マルチエージェント学習、引き込み